米国税制情報 (U.S. Tax Guide)
2016年分~税額控除・改正点 (個人)
子女税額控除/米国人教育機会税額控除/勤労所得税額控除
この内容は、AICPAの税務専門誌であるTax Insiderに掲載された記事を、神山が翻訳したものです。個人にとって一般的な税額控除項目である子女税額控除、米国人教育機会税額控除、そして勤労所得税額控除について、制度の内容が恒久化されたことを踏まえた内容となっています。
受験レベルとしては細かい内容が含まれていますが、記事に掲載されている税額控除項目が、いずれも大変一般的なものであることと、米国政府が、個人の税額控除に対してどのような考えを持っているか、についてご理解頂ければと思い、掲載致します。
結論から申し上げますと、還付可能税額控除について制度を厳格化させ、納税者に対して安易に還付を行わなくなったということです。
具体的な点を挙げると、以下の点にまとめられます。
①子女税額控除と米国人教育機会税額控除については、個人識別番号(ITIN)が必須とされた(そのため、ITINを有していない期間に遡及適用することができなくなった)
②米国人教育機会税額控除については、申告要件が追加されるとともに、事実上、対象となる教育費については現金主義が適用されることとなった
③子女税額控除と米国人教育機会税額控除に対して罰則が新設され、勤労所得税額控除と同様に、不正申請を行った場合は、以後10年間、故意等により申請を行った場合は、以後2年間、それぞれ再申請が禁止された
以上です。 ご参考になれば、幸いです。
※ なお、Child Tax Creditを「児童税額控除」と訳していたり、 Child and Dependent Care Creditを「子女養育費税額控除」等と訳 している文献があります。
しかし、以下の理由から、 Child Tax Credit を「子女税額控除」 Child and Dependent Care Credit を「児童等養育費税額控除」 と訳しています。
①そもそも、米国のChild Tax Creditは、13歳未満の児童を適用対象者 としたものではなく、17歳未満の子女を適用対象者とした制度である
②13歳未満である児童を適用対象者としているChild and Dependent Care Credit との違いを明確にする
適用対象者を正しく訳すことが、制度の正しい理解に繋がると思いま す。
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米国連邦議会は、一般的な税額控除の改正を行い、子女税額控除、米国人教育機会税額控除、及び勤労所得税額控除の期限を延長した。
サリー・P・シュライバ― J.D. 2016年1月28日
(翻訳:神山 直規) |
米国連邦議会は、12月中旬、様々な期限切れ租税条項を恒久化させる、良いニュースを納税者に与えた(統合予算法(CAA)、2016, P.L. 114-113)。 この恒久化により、納税者と実務家は、これらの条項が延長されるのか否か、そして、どの程度延長されるのかを懸念する毎年の心配をすることなしに、これらの税制優遇措置を計画する、より良い能力を得ることとなった。
しかし、子女税額控除、米国人教育機会税額控除、勤労所得税額控除(EITC)に影響を与える、他の若干の、そしてあまり公表されていない改正が、延長という良いニュースで覆われてしまった。 これらの変更には、実務家に対する、新たな規制、新たな罰則、そして新たな正当注意が含まれている。
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■子女税額控除■ Child Tax Credit
①概要 第24条では、所得が一定限度額以下である納税者に対して、その納税者のそれぞれの17歳未満の税制適格となる子供につき、1,000ドルの税額控除が規定されている。 その税額控除は、通常は還付不能である。つまり、この税額控除は、納税者の租税債務を超える税額控除を行うことができないこととされている。 しかし、第24条(d)は、この税額控除の一部を還付可能としている。 この還付可能税額控除部分は、一般に、追加子女税額控除(Additional Child Tax Credit)と呼ばれている。そして、これは、その年の納税者の勤労所得の割合を用いて計算される(3,000ドルを超える課税対象である勤労所得の超過額に対して15%)。 3人以上の税制適格な子女を有する納税者については、別個の制限が適用される。 新たな法律が制定される前は、税額控除の還付可能な部分を計算するための3,000ドル(の控除額)は、2018年に景気変動条項により(納税者不利な結果となる)10,000ドルに増額することが予定されていた。 今や、納税者が還付可能(または、追加的)となる、第24条の子女税額控除の適用を受ける資格を有するか否かを決定するための控除額は、(インフレーションの指標がない、2009年からの還付可能控除額である)3,000ドルに恒久的に定められた。
②遡及申請 同法による1つの改正は、子女税額控除を遡及して申請することを禁止した点である。 これは、納税者または税制適格となる子女が、個人識別番号(ITIN)を有していなかった過年度に対して、納税者が子女税額控除を申請する修正申告書(または、当初申告書)を提出することができないことを意味している。 これは、納税者が、子女税額控除を申請する納税年度より後に発行された個人識別番号(ITIN)を利用して、子女税額控除の申請を行う申告書を提出することができないことを意味している。 この条項の発効日により、納税者は、2015年の申告書を期限内に提出した場合には、当該準則に関わらず、同申告書を提出することが認められている(同法、第205条)。
③新たな罰則 新たな法律が制定される前、故意または不正に子女税額控除を申請した納税者に対する罰則は存在していなかった。 今般、勤労所得税額控除(EITC)における不正申請に対して、すでに適用されている諸準則が、子女税額控除にも適用されることとなった。 税額控除を不正に申請した個人は、10年間、その税額控除の申請を行うことが禁止されている。 もし、故意に、または諸準則を意図的に無視して、税額控除を申請したことが判明した場合には、2年間、適用を申請することが禁止される(改正法Q部門、第208条(a)(1)によって、第24条(g)が改正されている)。
④IRSにおける手続き 同法により、もし、納税者が、子女税額控除を適用することが禁止されている期間中に、同税額控除を申請した場合には、内国歳入庁(IRS)は、数字上の誤りに対する権限を有しており、正式な税務調査を行うことなしに、不適切な税額控除を承認しないことが認められている(第6213条(g)(2)(P))。 2016年12月31日より後に、追加的子女税額控除を申請する納税者に対して、内国歳入庁(IRS)は、その還付申請を検証する追加的な時間を有することとなる。そして、その納税年度の末日後、2カ月目の15日より前に還付金を支払う必要はないこととされた(第6402条(m))。
⑤正当な注意 2015年12月31日よりも後に開始する納税年度から有効となるが、申告書作成者は、子女税額控除を申請する申告書に対して、現在、勤労所得税額控除(EITC)を申請する申告書において従わなければならない程度と同程度の正当注意要件の適用を受けることとなるであろう。 勤労所得税額控除に対する正当注意要件には、以下の事項が含まれている。 i)申告書に、完成したチェック・リストを添付すること ii)明細を記したワークシート(作業表)を完成させること iii)正当注意を文書化した一定の記録を、3年間、保管すること iv)納税者が、子女税額控除を申請し、または、同税額控除を計算する資格を有する場合において、申請または計算に用いられた情報が不正確なものであったことを知らなかったか、もしくは、知るべき理由を有していなかったこと 子女税額控除における正当注意が、正確には何かという点については、まだ判明していない。 内国歳入庁は、子女税額控除を申請する申告書に対して、正当注意要件を課す財務省規則を発行する権限を与えられているが、未だに公布されていない。 正当注意要件に従うことができなかった場合における罰金は、各々の不履行に対して500ドルと定められている(第6695条(g))。
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■米国人教育機会税額控除■ American Opportunity Tax Credit
①概要 納税者は、米国人教育機会税額控除により、制度の適用を受ける資格のある学生それぞれの税制適格教育費用に対して、2.500ドルまでの税額控除を申請することが認められている(第25条A項参照)。 当税額控除は、修正総所得金額(AGI)が一定の金額を超過する場合には、逓減することとなる。 2009年に法律が制定される前、教育費用に対する税額控除はホープ税額控除(Hope Credit)と生涯学習税額控除と呼ばれていた。 2009年、米国再投資回復法(P.L.111-5)により、ホープ税額控除は、米国人教育機会税額控除と名称が変更された。 新たな税額控除は、当初、2009年から2017年までの期間、有効とされていた(第25条(A)(i))。 今回の法律により、米国人教育機会税額控除は、恒久的税額控除に改正された。
②申告要件 米国人教育機会税額控除を申請する納税者は、今般、同税額控除において、納税者が税制適格教育費の支払いを行った教育機関の雇用者識別番号(Employer's Identification Number)を申告することが必要とされた(第25条A(i)(6)(C)。 同法によって、高等教育機関に対する申告要件が改正された。これにより、実際に支払った金額と請求された金額の間で申告金額を選択することを認める代わりに、様式1098-T「教育費用報告書」において、実際に支払われた税制適格教育費、及びそれに関連した費用だけを申告することが要求された。 これらの条項のいずれもが、2015年12月31日より後に開始する教育期間に対して行われる教育サービスのために、同日後に支払われる費用に対して有効とされている。
③遡及申請 子女税額控除と同様に、同法では、米国人教育機会税額控除の申請を行う個人または学生が、個人識別番号(ITIN)を有していない過年度において、納税者である個人が、修正申告書(または、当初申告書)により、米国人教育機会税額控除の遡及申請を行うことを禁止している(第25条A(i)(6)(A)及び(B))。 これは、納税者が、米国人教育機会税額控除を申請した年度より後に発行された個人識別番号(ITIN)を用いて、米国人教育機会税額控除を申請する申告書を提出することができないことを意味している。 この条項の発効日により、納税者は、もし申告書が、期限内に提出される場合には、この準則に関わらず、2015年の申告書を提出することが認められている(同法第206条(b)(2))。
④新たな罰則 かつて、勤労所得税額控除(EITC) に対してのみ適用されていた条項が再び追加され、個人が、米国人教育機会税額控除を不正に申請した場合には、10年間、米国人教育機会税額控除の申請を行うことが禁止されることとなった。さらに、個人が、故意に、または、準則を意図的に無視して、米国人教育機会税額控除の申請を行った場合には、2年間、同制度の申請を行うことが禁止されることとなった。
⑤IRSにおける手続き もし、納税者が、米国人教育機会税額控除を適用することが禁止されている期間中に、同税額控除を申請した場合には、内国歳入庁(IRS)は、数字上の誤りに対する権限を有しており、正式な税務調査を行うことなしに、不適切な税額控除を認めないことを許可されている(第6213条(g)(2)(Q))。
⑥正当な注意 2015年12月31日後に開始する納税年度に対して有効な子女税額控除において定められた、新たな正当注意要件と同様に、申告書作成者は、米国人教育機会税額控除の申請を行う申告書において、正当注意要件に従わなければならないこととされた。 そして、子女税額控除と同様に、米国人教育機会税額控除に関する正当注意要件とは何なのか、という点は、未知のままである。内国歳入庁は、米国人教育機会税額控除の申請を行う申告書において、正当注意要件を課す財務省規則を公布する権限を与えられているが、これはまだ、公布されていない。 正当注意要件に従うことができなかった場合における罰則は、各々の不履行に対して500ドルと定められている(第6695条 (g))。
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■勤労所得税額控除■ Earned Income Tax Credit (EITC/EIC)
①概要 勤労所得税額控除(EITC) は、勤労所得が、中程度か、または、低所得である納税者に対して、還付可能税額控除を保証している。 同税額控除における税額控除額は、納税者の(インフレーションにより調整された、法定の最高限度額までの)勤労所得に対して、税額控除割合を乗じることにより算出される。 納税者に適用される、勤労所得の最高額と税額控除割合は、その納税者における税制適格の子供の人数に基づいている。 納税者の調整済課税所得(AGI)と勤労所得(Earned Income)のいずれか大きい方の金額が、適用可能な税額控除の逓減開始額を超過する場合には、この税額控除額は逓減することとなる。これは、その納税者の税制適格の子供の人数に基づいている。
②高額税額控除額 勤労所得税額控除における、子供のいない納税者に対する税額控除割合は7.65%であるが、税制適格の子供が1人である場合には税額控除割合は34%となり、税制適格の子供が2人である場合には、その割合は40%となる。さらに、税制適格の子供が3人(以上)の場合には、税額控除割合は45%となる。 税制適格の子供が3人(以上)の場合における45%の税額控除割合は、当初、暫定条項であり、2018年に期限を迎える予定であった。しかし、米国連邦議会は、法律により、45%の税額控除割合を恒久化させた。 2009年、夫婦合算申告書を提出する婚姻した夫婦に対する勤労所得税額控除における税額控除の逓減開始額は、(納税者有利とするために)その他の申告者に対する逓減開始額を超えた5,000ドルに増額され、2009年から2017年の間、年次インフレーション条項に従うこととされていた。 2017年の後、夫婦合算申告書を提出する婚姻した納税者に対する勤労所得税額控除における税額控除の逓減開始額の増額(である5,000ドル)は、期限により満了(し、納税者有利措置が終了)することが予定されていた。 法令により、夫婦合算申告書を提出する婚姻した納税者に対する、勤労所得税額控除における税額控除の逓減開始額に対する5,000ドルの増額は恒久的なものとなり、2015年の後においては、年次インフレーション調整が継続されることとなった。
③遡及申請 上記で述べた、他の税額控除と同様に、同法は、個人が、有効な社会保障番号(SSN)を有していなかった過年度において、修正申告書(または、当初申告書)を提出することにより、勤労所得税額控除の申請を行うことを禁止することによって、勤労所得税額控除の遡及申請を禁止している。 これは、納税者が、勤労所得税額控除を申請する納税年度の後に発行された社会保障番号を用いて、勤労所得税額控除を申請する申告書を提出することができないことを意味している。 (他の税額控除と異なり、納税者は、勤労所得税額控除の適用を受けるためには、単なる個人識別番号(ITIN)ではなく、社会保障番号(SSN)を有していなければならない(第32条(m))。
④IRSにおける手続き 2016年12月31日より後に勤労所得税額控除を申請する納税者に対して、内国歳入庁は、その申請を検証する追加的な時間を有することとなった。そして、その納税年度の末日後、2カ月目の15日より前に還付金を支払う必要はないこととされた(第6402条(m))。
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著者である、サリー・P・シュライバ―女史は、Tax Insiderのシニア編集者である。
以下のHPも参照してください。