青山IGC学院の受講生の皆様へ

 

 

 はじめまして、租税法・会計学担当講師の神山直規と申します。このページをご覧頂きまして、大変ありがとうございます。

 少し長文となりますが、租税法を学ぶことについて、私なりの考えをお伝えすることにより、大学院において学ぼうとする皆様に対して、何等かの指針を与えることが出来ればと思い、書かせて頂きます。

  

 

私は、26歳で税理士試験に合格し、その後、実務経験を重ねながら、改めて大学院にて租税法及び税務会計の研究を開始しました。財務会計及び税務会計等の諸先生方のご指導を受け、また税務会計や租税法を研究する様々な学生の方々と意見交換を行ってきた結果、同分野を研究することの意義と、その奥深さを知り、研究を継続しながら、教育活動を行っている次第です。

 大学院において、租税法や税務会計を研究することは、税理士の試験勉強では得られなかった知識と探究心を得ることが出来ます。これらは、税理士資格取得後、実務上の疑問に遭遇した際に、大いに実力を発揮するものと推測されます。それほど、税理士の試験勉強と大学院による租税法の研究には違いがあると言って差し支えないでしょう。

 

 

 租税法は、法律です。法律とは、日本の国民の常識とその社会的背景を基礎とした合意の産物であると言えます。つまりは、制定された法律は、絶対的なものではなく、日本の社会を構成する国民の合意によって出来上がった、相対的なものです。それは、日本の社会において想定される課税のあり方に基づいているわけですが、社会経済の変化や諸外国の状況により影響を受け、時間とともに変化し得るものであると言えます。こうした、未来における、より良い日本の経済社会を構築するために、租税法を研究する価値が存在しているのです。

 例えば、日本国憲法では、第30条において、国民に対する納税の義務を定めています。しかし、国家による租税の収奪は、国民の財産権を侵害する行為であることから、第84条において租税法律主義を定め、国民の代表者である国会議員が国会で可決・成立した法律を根拠として、租税を課すこととされています。しかし、日本国憲法、第14条第1項では、法の下の平等を謳っています。そこから、租税公平主義という考え方が出てきます。

 ここで、租税法律主義と租税公平主義は、いずれが優先される考え方でしょうか? 租税は、租税法律主義に基づかなければ課することはできませんが、その租税に関する法律を制定する際には、租税公平主義を考慮しなければならないこととされています。そのため、租税公平主義に反する租税法が制定された場合には、違憲とされ、無効とされてしまいます。

 税理士の試験勉強で、租税に関する科目を勉強する際、租税法律主義や租税公平主義は、当然の前提であるものとして取り扱われるため、改めて論じられることはありません。しかし、租税に関する判決では、課税の公平性について論じられることは非常に多く存在します。それは、課税の公平性が絶対的なものではなく、様々な考え方によってその意味が変化し得る、相対的なものであるからでしょう。

 税理士の試験勉強に当たっては、法律以外にも、施行令、施行規則、さらには国税庁内の職員に対する命令である通達までも勉強することとなります。それは大変素晴らしいことです。これに対して、大学院では、原則として租税法律主義の観点から研究を行い、本来あるべき租税のあり方について研究します。税理士試験が、条文の規定や実務上の取扱いに関する知識を試すものであるのに対し、大学院における研究は、あるべき租税の姿を探求するものであると言えます。

 

 

 例えば、以下のような論点について、あなたはどう考えますか?

 

・所得税が累進課税であり、法人税が基本的に単一税率であるのは、公平と言えるでしょうか?

 

・所得税法は、なぜ所得の区分を設けているのでしょうか?

 また、その区分は、今の時代に合っているでしょうか?

 

・国家財政を維持する上で、所得税、法人税、消費税等の歳入割合はどのくらいが良いのでしょうか?

 

・相続税を廃止する国々があります。これに対して、国際的にも高齢化が進展した日本の経済社会において、相続税はどうあるべきでしょうか?


・若年層の貧困化と、日本の多額の財政赤字が叫ばれています。これは、財政上、どのような問題があり、どう対応すべきでしょうか?

 

 以上は、論点の一部であり、これらに限らず、たくさんの問題点があります。その答えは、いずれも唯一絶対なものではないでしょう。如何なる根拠を前提として、どのように課税すべきであると考えますか? 日本の社会において適用されるべき、課税のあり方を探求していくことが研究であり、その成果を論文として社会に公表するわけです。租税法の研究は、非常に責任の重い、かつ有意義な行動だとは思いませんか?

 

 

 研究を行う際は、日本の社会と財政の特徴を検討するとともに、これまでの先人達がどのように考え、取り組んできたかを検証した上で、あるべき課税のあり方を論じることが必要です。その際、単に、海外の制度を紹介し、その方法を採用するだけでは、必ずしも良い結論は得られません。なぜなら、海外の国における社会経済が成立してきた歴史的背景及びそれが発展してきた経緯は、日本のものとは同一ではないためです。

 そのため、日本の国において、あるべき租税論を研究する際には、まず日本の社会を支える国民の意識や、社会的慣習、共通の理念を考慮しなければなりません。租税は、国民の富の再配分であると言われますが、どのくらい徴収(歳入)し、何の目的のため(歳出)に使うかは、国民の代表である国会議員が国会で決定します。正に、そこにこそ、日本の社会、国民の意識等を反映した租税の姿が存在しなければならず、かつ、租税としてあるべき姿が希求され続けなければならないのです。

 是非、上記の観点から租税法を研究して下さい。その道は、計り知れない程遠いものです。しかし、租税法を学び、日本の社会における租税の意義と役割を探求して頂くことにより、実務において課税上の取扱いに関する豊富な知識を有する試験合格組とは異なった、租税を論理的に探求することのできる専門家として実力を発揮して頂くことが出来るでしょう。

 

 

 最後に、これから租税法及び会計学を学ぼうとする皆様の決意に対して、心から敬意を表しますとともに、皆様の未来が輝かしいものとなりますことを、心よりご祈念申し上げる次第です。