このほど、国税庁では、競馬の馬券の払戻金に係る所得区分について、最高裁平成29年12月15日判決及び東京高裁平成28年9月29日判決(最高裁平成29年12月20日上告棄却)を踏まえ、その所得区分が雑所得又は一時所得とされる具体的な判断基準を公表しましたので、紹介します。
なお、今後は、パブリックコメントを行った上で所得税基本通達34-1を改正し、改正後の所得税基本通達についてはホームページ上で公表するとしていますが、この判断基準による取扱いを適用することで過去の所得税の申告の内容に異動が生じて所得税が納め過ぎになる場合には、法定申告期限から5年内であれば更正の請求により還付を受けることができるとしています。
1.競馬の馬券の払戻金の所得区分等(国税庁の考え方)
競馬の馬券の払戻金の所得区分については、馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分されます。
具体的には、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合は、雑所得に該当すると考えます。
なお、上記に該当しない「いわゆる一般の競馬愛好家の方」につきましては、従来どおり一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できません。
2.参考
(1) 最高裁平成29年12月15日判決の概要
所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
これを本件についてみると、被上告人は、予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って馬券を購入することとし、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標として、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら、6年間にわたり、1節当たり数百万円から数千万円、1年当たり合計3億円から21億円程度となる多数の馬券を購入し続けたというのである。このような被上告人の馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様に照らせば、被上告人の上記の一連の行為は、継続的行為といえるものである。
そして、被上告人は、上記6年間のいずれの年についても年間を通じての収支で利益を得ていた上、その金額も、少ない年で約1,800万円、多い年では約2億円に及んでいたというのであるから、上記のような馬券購入の態様に加え、このような利益発生の規模、期間その他の状況等に鑑みると、被上告人は回収率が総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたといえるのであって、そのような被上告人の上記の一連の行為は、客観的にみて営利を目的とするものであったということができる。
以上によれば、本件所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、所得税法35条1項にいう雑所得に当たると解するのが相当である。
(2) 東京高裁平成28年9月29日判決の概要
営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当であるから、行為の期間、回数、頻度とその他の事情との間に考慮要素としての優劣はないというべきであるし、馬券購入行為が長期間、継続的かつ多数回にわたるものであったとしても、経済活動としての実態がない馬券購入行為が連続して多数回行われたにすぎない場合も考えられるから、馬券購入行為の期間、回数、頻度に加え、購入馬券の選定方法等の事情も考慮しなければ、一連の馬券購入行為が営利を目的とする継続的行為であるか否かを適切に判断することはできないというべきである。そして、一審原告による一連の馬券購入行為が一体の経済活動の実態を有するものといえないことは、原判決説示(注)のとおりである。
(注)原判決(東京地裁平成28年3月4日判決)説示部分
原告の収支は、年単位でいずれも多額の損失が生じているのであって、また、その主張のとおり、少なくとも3年間のほぼ全ての土日において馬券を購入し、払戻しを受け、購入金額や払戻金額はいずれも合計で1億円を超える年もあるなど多額であり、年単位で購入回数が1,500回から2,000回、払戻金獲得回数が100回から200回であったとして、それを考慮に入れたとしても、一般的な馬券購入行為が連続して多数回行われたというものにすぎないのであって、原告の馬券購入行為が一般的な馬券購入行為と質的に異なるものであるということはできない。
馬券購入行為が経済活動の実態を有するか否かを適切に判断するためには、一連の馬券購入行為の回数や頻度、収支の状況のみならず、どのような選定方法に基づき、どの種類の馬券をどの程度の数量で購入したかなどの馬券選定の具体的な態様を考慮する必要があり、それが明らかとならない以上、一審原告による一連の馬券購入行為を一体の経済活動の実態を有するものとみることはできないし、また、一連の馬券購入の方法が一体の経済活動といえるようなものであれば、確実に入手できる信頼性のある資料に基づいて、曖昧さのない合理的な仕組みによって購入する馬券とその数量が決定され、これが反復継続されているはずであるから、この方法を明らかにするように求めることが不可能を強いるものとはいえない。
以上によれば、本件払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得とはいえない(本件払戻金は一時所得に該当する。)。
◎ これらの具体的な内容等につきましては、
国税庁ホームページ
>調達・その他の情報
>お知らせ
>「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」でご確認ください。